子猫物語(最終回)

 平成17年8月24日、ステが突然出ていった。

何日も何日も夜中まで探し歩いたが、とうとう見つからなかった。

見つからなかったことよりも、見つけることをやめることが、こんなにつらいものかと、思い知った。

二度と猫なんか飼わない!家族で決めた。


その悲しみのなかで、出会いもあった。

一緒にステを探して下さったピアノの先生に、次男が教わることになった。

習い始めてしばらくたった後、その先生は厳しくて有名な先生だと噂で知った。

その厳しい先生のレッスン中に、次男は堂々と鍵盤に頭を乗せて居眠りをするらしい。

それを、じっと、目を覚ますのを待つ、「厳しい」と評判の先生。

親として、申し訳ない以外のなにものでもない。

今でもそのピアノの先生のご家族とは、親戚づきあいをしている。

「ステ」は、そんな「出会い」もつくってくれた。


それから2年が経とうとしていた。


「結花先生、ステちゃんとのお別れは癒えましたか?」と、会うたびに気遣って下さる生徒のママがいる。

そのママから、

「すっごく可愛い猫の赤ちゃんが産まれたんです。ぜひ、結花先生にと思ってあずかってきたんです。」と。

「もう、二度と猫なんか飼わない!」と、決めていたのに、人間なんて勝手なものだ。

中学2年になった長男も、小学2年になった次男もノリノリだ。

僕だけが「ステはまだどこかで生きているかもしれない!だから、ほかの猫は飼わない!」と、言い張った。

次男が「パパ、この猫、ステの生まれ変わりかもしれないよ!」

「そ、そんなこと、あるのか?」

妻が「あるある!」

「そうか!これも、何かの縁だな!」

全員「そうだよ、縁だよ!」


人間なんて、都合よく考える動物なのである。


そんなわけで、家族が増えた。

アメリカンショートヘアとスコティッシュなんとかのかけ合わせ、と言われたが、そんなことはどうでもよかった。


「ステ」の「生まれ変わり」と思い込むことにした。


名前をつけた。

その時読んていた漱石の「それから」に出てくる姪の名前をいただいた。

「縫(ぬい)」と命名した。

最近ではなかなかつけない古風な名前だ。

なかなかいい!

バブルが崩壊して数年経ったが、

「ボジョレー縫うボー」が流行っていたから、その「縫」にかこつけるのもおもしろい!

そんなわけで、新しい家族は

「縫」ちゃんである。

女の子である。

この子はプライドが高い。孤高の猫である。誰にも寄り添わないが、次男にだけはなついた。

そして、僕だけを恐れている。

だから、爪を切るのもお風呂に入れるのも、僕の役目だ。

その「縫」が、今週月曜日(2026年5月25日)、19歳の誕生日を迎えた。

すごい!

頑張っている!

ヘトヘトになって家に帰ると、必ず玄関で待っている。

毛はボソボソ、爪は巻き爪になり、それでも、食欲はちゃんとある。

頑張れ「縫」

来年の今頃は、盛大に「成人式」をやるぞ!

「ステ」と「縫」・・・

どっちも幸せな日々を僕たちにくれたな。


まねき猫だな。


子猫物語


読んでくれて、ありがとうございました。


おわり・・・





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