親しい友が来た。
入院していた友人が土曜日に退院し、今日(月曜日)、うちの設計事務所に来るとメールが入った。
声帯を切除して声が出ないとメールに書いてあったから、励ましてやらないと・・・
一緒に事務所で働いている相棒は、今日来る彼とは小学生のときからの幼なじみだ。
相棒が
「トマトが来るなら役所の打合せは後回しだな。」
「トマト」とは、退院した友人の中学生の時からのあだ名だ。
相棒は中学生の時から強面(こわもて)で、喧嘩の強い「裏番」であったが、本来優しい男である。文学少年だった僕とは、そもそも住む世界が違っていたのだが、この歳になるまで一緒に仕事をしているのもおかしなものだ。
そうこうしているうちに「トマト」がやって来た。
何やらタブレットのようなものを持っている。
相棒と二人、玄関で出迎えた。
トマトは軽く右手を上げながら入ってきた。
「久しぶりに会ったんだ、こんにちはぐらい言ったらどうだ。」
そう言うと、トマトが嬉しそうに微笑んだ。
相棒が「とにかく良かった・・・」と、言った。
何が良かったかは知らないが、寡黙(かもく)な相棒にしては上出来な挨拶だ。
3人ソファーに座り、トマトがタブレットに「ありがとう」と書いた。
からかってやった。
「盗聴器は無いから、声出していいぞ!」
また、笑った。
これでいい。
それから1時間くらいかな、抗がん剤治療や放射線治療、癌摘出の話を、タブレットと会話した。
無口な相棒は、二人の会話を腕を組んで聞いているだけである。
役所との協議をキャンセルする必要はなかったと思うが、相棒なりの幼馴染への思いが理解できた。
僕が、
「そもそも、お前、話なんかほとんどしなかったんだから、声が出なくなってもそれほど不便じゃねーだろ」というと、
相棒が
「話さねーのと話せねーのとは違う!」と、まともなことをいう。
相棒、今日は雄弁である。
トマトがタブレットに
「性格、なおしたほうがいいぞ!」と書いてきたが、顔は満面の笑みだった。
帰りがけに声をかけた。
「いつでも来ていていいからな。誰かは居るはずだ。ここでネットでも見てろ!」と言って見送った。
トマトは声なき声で「ありがとう」と言いながら、また、右手を上げて帰って行った。
二人になって、相棒が言った。
「まあ、大丈夫だ!」
「ああ。」
それだけの会話で十分だった。
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